(6/6回) 第3話 5ひきの仔豚と狼の 『お化け屋敷でしょ』(最終回)
ばぶさん童話 新シリーズ『5匹の仔豚とオオカミ』集より
●仔豚のお化けレストラン
狼が立ち上がると
テーブルも椅子もノートも鉛筆も消えていました。
けれどもすぐ傍にドアが見えました。
中からいいにおいが流れて来ます。
狼がドアのノブに触って開けようとしたら
♪たーらら・たらりーたらりーたーたーらーら・・・♪
と5匹の仔豚のアカペラが聞こえて来ました。
「ふぅ~ん。このメロディーはムソルグスキーのピアノ組曲
『展覧会の絵』プロムナードじゃねえか。
けっこうおっしゃれー。」
ギッギッギッギッギィ~~~イ。
「うう、この音、きもちわりぃー」
狼はその部屋の中に入りました。
「うう。おいら怖く なんかないもんねー」
バタンっと勝手にドアが閉まりました。
「怖くなんか、こわくなんか、ないもんもんもんねぇへろへろへろぉ」
ぶるぶる。
真っ赤なテーブルクロスにおおわれた
「していせき」と名札のあるテーブルがありました。
その名札をよく見ると『おおかみさまごよやく』と書いてあります。
狼はそのテーブルの椅子に坐るとエプロンをつけました。
「おいら めっちゃ はらぺこだもんね。
どんなごちそうにありつけるのかなぁ?
カレーライス、スパゲッティー、ハンバーガーにイチゴケーキ、
チョコドーナッツにソフトクリーム、・・・あとは・・・」
自分の食べたいものをあれこれつぶやいていると、
んぴょ ぴょぴょ ぴょぴょっ とご馳走たちが湧いて出ました。
「うっひょー。
おっ、カレーライス、
スパゲッティー、
ハンバーガーにイチゴケーキ、
チョコドーナッツにソフトクリーム。
ぜーんぶあるじゃねえか。
あれぇ?肝心のナイフとフォークがないねぇ」
狼がぼやくと、なんと狼の右手ナイフが、左手がフォークになっていました。
「だーめ。だめだめだめ。こんなのだーめ。
エレガントにいかなくっちゃね。
あーきみきみ、ナイフとフォークを持って来てくれたまえ。」
ウエイトレスの服を着たブウ子がナイフとフォークを持ってきました。
「ごくろう」
狼がよく見るとそのナイフとフォークは赤ちゃん用でした。
「ちちちち。あーきみきみ」
とブウ子を呼びましたが狼の声が聞こえないのか
ブウ子はすぅーとどこかへ消えてしまいました。
「あー、そこのきみきみ。
べつのナイフとフォークにとりかえてくれたまえ」
「かしこまりました。」
ウエイターの服を着たブァ太郎が返事をしました。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「あー、ごくろう」
よく見るとこんどのナイフとフォークは
まるで幼稚園の砂場で子どもたちが使う道具のような大きさでした。
「ちちちち。こらこら きみ・きみ、きーみ」
と狼はブァ太郎を呼びましたが、狼の声が聞こえないのか
ブァ太郎は振り向きもせずそのまますぅーと消えてしました。
「あぁ~あ。しょうがねぇなぁ~。
・・・・・・あっ」
見るとテーブルの上には一つもご馳走が残っていませんでした。
「誰かが全部くっちまった。
最初っから手づかみでも何でもいいからくっちまうんだった。 けっ」
狼がふてくされているとテーブルの上の大皿も小皿もカップも
全部消えてなくなって、
新たに大きなスープ皿が乗っかっていました。
それは狼がこれまで一度も見たことのないくらい大きなお皿でした。
まるでお風呂の湯船位の大きさです。
「ん? 中はどうなってんだぁ?」
狼が椅子の上に立ちあがってお皿の中を覗き込むと
足がつるりと滑ってドップ~~ン。
スープの中に落っこちてしまいました。
「わーい、プールだ、プールだ。じゃぶじゃぶじゃーぶ。
すいすいすーい。」
と狼がスープの中であそんでいると、
頭の上で誰かの話しあう声が聞こえました。
狼は天井を見上げました。
するとそこには三つ目大入道のでっかい顔と、
一つ目小僧のちっちゃな顔が見えました。
「こいつぁ、うまそぉーだ。」
「おいちゃん、ぼくにもわけてくれよぉ」
三つ目大入道と一つ目小僧のよだれがタラーリと垂れました。
「わーわーわー。ぎゃああああああ」
あんまりびっくりしたので狼は思いっきり飛び上って
天井を突き破り、
屋根を突き破り、
お化け屋敷のてっぺんに飛び出てしまいました。
夜空ではお星さまたちが
「おやすみなさーい」
とぴかりぴかりいいました。
狼は「ふぁああ~~~あ」と大きなあくびをひとつしました。
~第3話 お・し・ま・い ~