カイロ団長・考 その4 雨蛙たちの解放と介抱と
命令通りに実行できない場合は巡査に引き渡して首をシュポンと斬られるぞという殿様蛙の恫喝におびえ無茶なノルマの達成に途方に暮れていた雨蛙たちを解放したものは王様からの新しいご命令の公布でした。
(前略)「そら、新しいご命令だ」と、
雨蛙も殿様蛙も、急いでしゃんと立ちました。(中以略)
「・・・王様の新しいご命令。
一か条。人に物をいいつける方法。
第一、人にものを言いつけるときはその言いつけられるものの目方で自分の身体の目方を割って答えを見つける。
第二、言いつける仕事にその答えをかける。
第三、その仕事を一ぺん自分で二日間やってみる。 以上。
その通りやらないものは鳥の国へ引き渡す。」
さあ、雨蛙どもは喜んだのなんのって、
チェッコという算術のうまい蛙などは、もうすぐ暗算を始めました。(中略)
「さあ王様の命令です。引っ張ってください。」
今度は、殿様蛙は、だんだん色がさめて、飴色に透き通って、そしてぶるぶる震えてまいりました。(中略)
そこで雨蛙は声を揃えて囃してやりました。
「ヨウイト、ヨウイト、ヨウイト、ヨイトショ。」(中略)
殿様蛙はまた四遍ばかり足を踏ん張りましたが、
おしまいの時は足がキクッと鳴ってくにゃりと曲がってしましました。
※そして私がこの『カイロ団長』の作品の中で一番気に入っているシーンへと続きます。宮沢賢治さんの感性の優しさがひときわ際立ちます。
雨蛙は思わずどっと笑いだしました。がどういうわけかそれから急にしいんとなってしまいました。それはそれはしいんとしてしまいました。みなさん、この時の淋しいことといったら私はとても口で言えません。皆さんはお解りですか。どっと一緒に人を嘲り笑ってそれから俄かにしいんとなった時のこの淋しいことです。
ところが丁度その時、またもや碧空高く、カタツムリのメガホーンの声が響き渡りました。
「王様の新しいご命令。
全てあらゆる生き物はみんな気のいい、かあいそうなものである。
けっして憎んではならん。以上。」
雨蛙たちは殿様蛙を介抱したり看病したり労わりの限りを尽くし、殿様蛙は悔悟の涙とともにカイロ団長をやめたことを宣言します。
再び雨蛙たちは元の造園業に復帰します。